「本日は最後の開館日になります。どうぞ作品達を愛でていって下さい。」
美術館の受付人が私達二人にそう言った。 私の連れ合いのもう一人の男は顔もはっきりしない誰だか分からない人物だったが寡黙な男だった。あぁ、ここは夢の中なのだ、と謎の男の存在によって私はそれに気がついた。私達は特に何の計画もなくこの美術館に立ち寄っていた。しかし案内人が言ったように、この美術館にとって今日というこの日は、最後の開館日という特別な日だったのだ。
入館したのは既に陽も傾きはじめた頃だった。そのためか人はほとんど居なかった。私達は常設展のある画廊に向かうことにした。人の居ない画廊を斜陽が照らしていて、寂しさのなかにどこか言いようの無い高揚感があった。
足を進めるごとに油絵や画材のにおいは強くなって、それは外界との距離を離していった。不思議なことに、夢の中でも匂いを感じることができた。 広くがらんとした画廊には、暖色系の照明がほのかに灯っており静かな空間が存在していた。—昔からずっとここに在って、そしてこれからもずっとここに存在し続ける、時間の軸を奪ったような空間が。
壁にはどこかでみたことがあるような無いような作品がたくさんあった。画の下の方にある、金色のプレートに書かれた作品名と作者名は私の知らないものだった。よく見てみるとその画のタッチは独特で、いや、何が変わっているかは表現できないけれど、初見なのに一目で彼のものだとわかるものだった。今、ここで見ている館内からのぞく外の景色も彼の眼を通して見たらこの画の様に映るのだろうか。私が普段見ているあの風景ですらさえも、いつものつまらない光景が、きれいじゃない映像が、彼の目のフィルターを通してみたら何か特別な、意味有りげな、神聖なものに見えるのだろうか……。
いつの間にかあの男も居なくなっている。私は少しだけ、油絵を描きたくなった。
あの時、テレビは1つ番組を視聴するのに63円程かかった。インターネットの普及により個別に電子決済が可能になったからだろう。だから起きてから寝るまでテレビを見ていたら、その日だけで800円くらいかかった。
けどその代わり、映像も見せ方も内容もすべてが作り込まれていた。
それまでの、従来型のスポンサーをつけて得る収益体系が成り立たなくなってから、テレビからコマーシャルは消え、クリエイター達が作品を披露する場になった。それまで大衆が”広告”によってペイしていた分をクリエイター側によってペイする仕組みになっていた。
なかでも私が気に入っていたのは天気予報だった。
あえてアナログな装置によってやるのがこの番組のウリらしい。カメラとお姉さんの間にアクリル板があって、そこに、手書きのマジックで等高線やらが書き込んであり、お姉さんがそこに天気を示すカラフルでゼリーみたいな粒を、説明しながら置いていった。カメラは少しローアングルで、お姉さんの顔は見えない。まるでカメラの存在を無視するかのように説明をしていく。なんだかフェティッシュをくすぐるような、そんな映像が45分続くのだ。
口四つ並べた漢字、㗊はある集落でかつて差別的に扱われていた人々の苗字で四ツ口とよんだ。卒業アルバムにその名前を乗せたくないときは他の漢字「宮」や「篠原」などを当てることができた。
クラスの中でそのアンケートを回した時には、 四割の生徒がその代替の苗字を希望していた。
クラスではそれはタブーであり、そのアンケートについてはクラスでは結構幅を利かせている人々も、誰も話題にしなかった。
あとで聞いてみると雄のひよこを屠殺する人々の名前として使われていた。彼らはなぜか嫌われていた。
とにかく不気味な夢だった。
自然言語に関する研究が進み、人間の話す言葉のみならず動物や植物から発せられる言語まで解析を拡張し、彼らの言語を人間が理解できるようになっていた。
あるとき、大地震が来るということを同時多発的に動物たちが発していることがわかった。
しかし、私と恋人はいつものように急がなかった。みんな避難する準備をしていた。私たちもカバンに、ジャージやジーンズ、タオルを詰め込んでいた。
外を見渡すと、隣家が燃えていることに気がついた。逃げようと思ったが、そのときにはすでに家は四方火に囲まれていた。
私は庭に、ガスボンベがあるのを思い出した。そして、ガスボンベが火で炙られて熱せられているのを見て、まずいと思った。
あー、やばい。どうしよう。そう思っていたら目が覚めた。
量子コンピューターが実現されてしばらく経った。
それを開発したチームはとてもクローズドで彼らとの接触もままならないほどだった。その量子コンピューターの登場でNP完全な問題にもアクセスできたのだけど、結局アクセスできるのは彼らだけだった。
彼らは、技術、考え方、ファッション、全てにおいて、違う価値観を持っていた。私たちにとってそれはまるで未来人のように見えた。
同じ人間だったが、まるで違う生き物に思え、その他人類が初めて劣等生物だと認識さえしそうだった。
ただ、大学のO先生は彼らと接触できた。今まで通算1000回は接触し、日本人として初めての功績(もはや接触するだけで功績になる)をあげ、新聞にも取り上げられていた。
O先生は、「彼らだって、私らと根本は同じなんだよ」そう言っていた。
私は指輪を失くした。場所を探すためにはNPの問題を解かなければならない。量子コンピューターは使えないかなと考えたが、一般人には手の届かない存在なので諦めて、地道に探すことにした。
暖かくて、涼しい、無風の空気が、髪を撫でる。
海崖の側の、これから夜になるのか昼になるのか、一瞬見失いそうになる明け方の太陽。
海面で散った淡い陽。反射する海面へ続く砂の浜。
一切の接続から独立した私を繋ぎ止めているのは、崩れ落ちそうな砂と光。
倦怠感とも似た自由。
今はとにかく気持ちいい。明日はどうなるかわからない。
そんな夢を見た。
屋外の屋根がある炊飯場のような所に、蓋で塞がれた槽があった。
蓋を開けると、何万、何千ものゴキブリが蠢いていた。
作業員が、定期的に桶から数百匹の蜘蛛をその槽に投入していった。
蜘蛛が投入された槽には、一瞬動揺が走り、ワッと響めいてみせた。
みるみるうちに、ゴキブリは、数を減らしていった。
一方で蜘蛛はゴキブリを餌に身を肥やしていった。
小さな沢山の悪が大きな少数の悪に跳梁跋扈される。
いいのかわるいのか、わからない。
私は蜘蛛もゴキブリも嫌いだ。
そんな夢だった。
私が、死んだときのこと。
自分が死んだとき、私を弔う人々はそれはもう忙しかったけど、私もそこそこ忙しかった。少し経ってやっと、ほっとする時間が出来てあの人のところに挨拶をしなくては、と思った。
ところが、冥界にいる私には現世に生きるあの人の場所はわからない。どうやっていけばいいのか、どこにいるのか。途方に暮れているといつの間にか道筋ができ、あの人の上に抱かれながら髪を撫でられていた。
「よしよし」
「あのね、私、死んじゃったの。だから挨拶に来たの。」
「知っているよ。来てくれて、ありがとうね。」
「道がわからなかったけど、なんだか来れたの。」
「ちょうど、ooのこと、考えてたからなぁ。」
「私のこと想ってくれてありがとう。また来てもいい?」
「もちろん。毎日ooのこと考えるからね。」
自分のことを想ってくれている間だけ、その人のところに行けるようだった。
そこで、夢から目を覚ました。頰には涙がつたっていた。
私はなんとなく、墓参りに行きたくなった。
2016/11/xx 土葬 森の中だった。スコップで腐臭のする死体を穴に埋めていた。死体は少なくとも2つあった。まだ肉が残っており、腐臭を放っている。顔をしかめながら土を被せ続けた。
2016/11/xx 墜落 並走していた旅客機が、浮力を失って黒煙をたなびかせながら墜落していった。追っていた数機の飛行機もまた謎の墜落を遂げた。
2016/12/xx 裏切り 通信機器の異常があった。そのロットで製造された通信機器全てがダメだった。私たち歩兵は混乱した。しかし、作戦の進行はもはや止めることができない。
そう思うや否や味方の戦闘機から榴弾を食らった。敵もろとも掃射されることになったらしかった。
2016/12/xx 参列 狐の嫁入りの参列した。そこでは、河童の肉の刺身が振る舞われた。人間が食べて良いものと悪いものがあるらしく、河童の刺身は食べることができた。
そんな夢のことを彼氏に話したら、「気持ち悪いからその話はやめて」と言われた。